流観 ~滔々歴史考察雑記~

「りゅうかん」 たまに現代政治の展望も交えつつ歴史を考察。


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小池旋風は何をもたらすのか~イデオロギーの変革期~

小池百合子勝利!小池新党が国政に進出したらどうなるだろうか?

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先日、7月2日の都議会議員選挙で小池百合子東京都知事率いる都民ファーストの会が元の6議席から追加公認も含めて55議席を獲得する大躍進を果たした。総理への野心があるといわれ、国政政党を立てるのではないかとささやかれる小池氏だが、本人の威光が強く多様性を謳いさまざまな経歴の人物を擁立した為、未だ都民ファーストの会という政党がどのようなものなのか見えてこない。一体、この政党はどこに向かうのだろうか。まだ、国政進出は明言されておらず、不確定なことも多いが、イデオロギーの歴史の流れから都民ファーストの会の思想的可能性を考えたい。

イデオロギーの現状

戦後の冷戦下でのイデオロギーは「資本主義と社会主義の対立構造」と説明されることが多い。しかしソ連崩壊後「自由民主主義の勝利」としばしば喧伝されたように、一党独裁下で社会主義以外の思想が禁止された東側陣営と違い西側陣営の先進国が国内に抱えた政治思想には多様性がある。

とはいえ西側の先進国の戦後政治は二大勢力が政権を争う形で進んできた。以下に西側先進国を代表するG7諸国の戦後政治の二大政党を表にまとめてみた。基本的には左派にあたる社会民主主義政党と保守系の右派政党の対立構造で、イギリス・フランス・ドイツに典型的である。日本とイタリアでは左派勢力共産主義の影響が強く、右派が左派系の政策も取り込んで巨大化し、長期的な一党優位制となった。北米のアメリカ、カナダは中道左派政党が社会主義を標榜こそしなかったものの、社会民主主義的な政策を取り込み、純粋な左派政党は第3党以下に留まっていた。

(共産主義(極左)社会民主主義(左派)中道左派中道右派右派)

  左派勢力 右派勢力
アメリカ

民主党

(1828~)※1

共和党

(1854~)

イギリス

労働党

(1900~)

保守党

(1834~)※1

フランス

社会党

(1905~)※2

共和国連

(1958~2002)※2

(西)ドイツ

ドイツ社会民主党

(1867~)※2

ドイツキリスト教民主同盟

(1945~)

日本

日本社会党

(1945~)※3

自由民主党

(1955~)

イタリア

イタリア共産党

(1921~1991)

キリスト教民主主義

(1942~1994)

カナダ

自由党

(1867~)

進歩保守党

(1867~2003)

※1 成立時期には諸説ある

※2 前身政党の成立から数えて

※3 1996年に「社会民主党」に改称

 

しかし1989年にベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一され、1991年にソ連が崩壊した90年代以降、社会主義政党は岐路に立たされた。戦後の基本政策だった社会保障政策は財政の悪化を招いており、新自由主義の台頭に対応する必要が出てきた。イギリスの労働党のトニー・ブレアが主張した「第三の道」ように、典型例だった三国は政権運営の経験もあり新たな方策を建てて党勢を立て直した。一方、日本では政界再編運動によって社会党は衰退して民主党が成立、イタリアでも共産党が衰退し民主党が現在政権についている。社会主義政党があまり強くなかったカナダ、アメリカでは90年代以降もそれまでと大きな政治構造の変化は見られないが、去年2016年のアメリカ大統領選挙イデオロギーの面から見て興味深い新たな主張が現れた。

2016年 ドナルド・トランプの衝撃

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 2016年過激な発言で注目を浴び、その後大統領に当選したドナルド・トランプの主張は「自国第一主義」といわれるものでしばしばメディアで極右と取り上げられた。経済的には保護主義的な反グローバリズムが見られ、80年代にサッチャーレーガンらが取り組み「保守革命」とも言われた新自由主義とは同じ右派の思想でありながら正反対ともいえる思想である。とはいえトランプ自身が経営者であり、政策には高所得者に有利になりそうなものも多くみられる。

この選挙では地方と都市部で票がはっきり別れたことも話題となった。支持者の多くは工業の衰退したラストベルト(錆びた地帯)といわれる地方の没落しつつある中流層である。新自由主義は「トリクルダウン」の理論によって経済成長が中下級層にも所得の増加がもたらすとされたが、80年代の施策以降むしろ格差が拡大し、二極してきた。トランプを支えるのは中流層から下流層へ落ちようとしているまだ多少の豊かさを残している者達だ。トランプにこれらの人々の生活を良くすることができるのか甚だ疑問だが、従来経済成長のために規制を緩和し、自由な国際市場を推進してきた右派から保護主義の主張が現れ、それを地方が大きく支持しているのは大きな歴史の流れの変化である。

2017年 エマニュエル・マクロンの衝撃

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 トランプの衝撃が冷めやらぬ中で今年5月に行われたフランス大統領選では女版トランプと称されたマリーヌ・ル=ペンが注目されたが、決選投票まで残るも敗北した。勝利したのは39歳の若きエマニュエル・マクロンであった。このマクロンも歴代のフランス大統領と比べてル=ペンに劣らぬ異色の存在である。大統領選でル=ペンは国民戦線という政党から、マクロンは無所属で出馬した。決選投票に残ったこの2人は従来の二大政党である社会党でも共和党(前述の表の共和国連合の後身)でもないのである。マクロンは前大統領オランドの閣僚経験者だが、オランドの与党社会党には入らず共和国前進!という新党を作った。フランスは半大統領制といわれる政治体制で、大統領と同じくらい議会に力がある。6月には下院にあたる国民議会の選挙があり、議席0の大統領の新党がどれだけ議席を伸ばせるのか注目された。結果は過半数289を越える308議席を獲得、連立与党となる民主運動と合わせると350議席となる大勝となった(選挙後党籍を替えた人もいて現在これよりも11議席増えている)。ル=ペンの対抗馬となったマクロンはEUを支持するグローバリズム的な政策を掲げ、メディアでは自国第一主義に歯止めをかけたと話題になった。

トランプと対なす形で現れたのはトランプと同じく既存の政治とは距離を置く新星マクロンであった。高齢のトランプに対して、若年である等対極的な存在である一方、経営者的性格を持つなどいくつかの共通点も見受けられる。こちらの選挙でも都市部と地方で大きく票が分かれ、ル=ペンは地方からマクロンは都市部から大きな支持を得た。極右とも言われるトランプに対してマクロンは中道と報道されることが多い。これは社会党政権に参加しつつも、右派から出てきた新自由主義を推進する立場の広さに対する評価でもあるが、既存の政治構造に与さない故に判断が遅れているという面もあるだろうし、単純に極論を言わない「良識派」の印象を表したものとも捉えられる。

しかし、マクロンが都市部の支持を受けるグローバル化推進の立場は今後左派の中心的な思想となるのではないかと思う。

変革期の中で定義を変えつつある「右翼」「左翼」

ここまで右派、左派と何気なく使ってきたが政治的によく使われる「右翼」「左翼」は時代とともに様々な概念を内包し、複雑で多義的な用語となっている。そのためある程度時代によってその意味合いを変えて考えなければ理解しがたい。前述の表のように戦後(といっても変化は1929年の世界恐慌前後から起こっているが)の左派は社会主義が大きな指標となった。対する右派をなんと言うかは各国の状況や政策に違いが多く、難しいが筆者は保守主義とまとめて考えている。ただし、この保守主義は戦前の政治状況を経て従来の保守主義とは一線を画している。だからこそ戦後の右派のことを保守主義と評さない場合も多々あるのだと思う。

戦前も社会主義は存在したが政権を取るまで成長したのは1917年のロシア革命によって生まれたソビエト連邦がはじめてで、民主的にはイギリスで1924年労働党のラムゼイ・マクドナルドが首相になったのがはじめてである。それ以前のイデオロギー構造は左派が民主主義(普通選挙)と自由主義を謳う「進歩主義」であり、右派が国権主義(制限選挙や君主政治)と保護主義を謳う「保守主義」である。民主化が進む中で保守主義は民主主義や自由主義を内包するようになり、進歩主義を飲み込む形で戦後の保守主義が成立した。進歩主義はその名の通り「人類の知識技術の進歩が幸福をもたらす」という考えを基に形作られた思想であり、最新技術が大量破壊兵器、民主主義が独裁政権を生み出した両大戦でその考えは根幹から大きく崩れ、左派の主流は社会主義に入れ替わった。これが1930年前後両大戦下で起こった前回のイデオロギー変革期の結果である。

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近年「思いやりのある保守主義」を掲げたジョージ・ブッシュ(Jr.)やデイヴィッド・キャメロンのように社会主義がもたらした社会保障政策は保守主義が取り込みつつある。ソ連の崩壊とともに社会主義が現在苦境に立っている要因のひとつである。しかし、前回のイデオロギー変革期のように劇的な変化ではなく、今のイデオロギー変革期は政治不信が叫ばれるような停滞の状況の中でで静かで緩やかな変化が起こっている。それは新たな政治潮流が左派ではなく右派から出てきた新自由主義だからであろう。右派から出てきた主張かつ、トリクルダウン理論が否定され格差の拡大を助長すると推測される政策を「平等」を中核としてきた左派は受け入れがたい。新自由主義およびその帰結として出てくるグローバリズムは衰退した左派の新たな受け皿としてはなかなか浸透しづらいのである。かといって保守主義新自由主義に傾くことはなく、左派と右派の政策の差が曖昧になってしまった。

これは支持層の問題もある。従来、社会主義等の左派は都市部に強いとされてきたが、グローバリズムの面を持つマクロンが都市部で支持が堅いことから都市部があまり格差の是正に主眼を置いてないことの現れである。一方で、右派の票田だった地方では社会保障や生活改善を求める声が強まっている。それは保護主義を掲げ、地方から支持を集めたことにも象徴される。新自由主義が未だ右派の理論として扱われる理由の1つは新自由主義がもたらす経済成長が生活改善に寄与すると考えている保守層が未だ多いからではないだろうか。しかし、経済成長による生活向上はかつての冷戦下である程度コントロールされていた世界経済の恩恵の部分が大きく、冷戦が終わり、世界経済が自由化を加速させた今では格差の拡大がかなり深刻であり、経済成長による生活向上は幻想に近くなっている。今までの票田を維持しようとするならば左派は平等を切り捨ててでも新自由主義グローバリズムに傾かざるをえず、右派は経済成長を切り捨ててでも格差の是正に傾かざるをえないのではというのが筆者の今後のイデオロギー構造の予測である。別に左派が格差是正に挑み、右派がグローバリズムに傾いてもおかしくはないのだが、それは人材的な継続性にすぎないだろう。「右翼」「左翼」を「保守」「革新」と考えるならばすでに根付いた社会保障を中核とするのが「右翼」であり、新自由主義新たな理論に根ざすのが「左翼」だろう。また、「右翼」「左翼」を「国粋的」「国際的」と捉えるならば自国第一主義のような保護主義は「右翼」であり、グローバリズムのような国際的視野が「左翼」だろう。人材的には新たな二大勢力の形成の中で複雑に動くと思われ、人物の所属で右派か左派かはあまり現実に即さないだろう。

似かよう小池とマクロンの政党と政策

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長々とイデオロギーの歴史や構造について書いて来たがそろそろ小池新党に話を戻したい。マクロンが新たに作った政党共和国前進!は政治未経験者の立候補が多く、これは都民ファーストの会にも似た面が見られる。また小池百合子のバックには新自由主義政策を実施した小泉純一郎元総理がついていると言われている。そして東京という場所、マクロンと同じく都市部の支持を受けると考えられる。小池とマクロンが政策や支持基盤で似たものを持っているのは確かだ。ただし、小池百合子は現状都知事として東京でしか選挙の実績がない。国政に出て他の都市部でも票が得られるかは分からない。しかし、国政にはすでに都市部を支持基盤とする新自由主義政党がすでに存在している。大阪から出た日本維新の会である。互いに食い合う可能性もあるが政策が似かよるのであればひとつの政党に纏まるかもしれない。維新の会は創設者である橋下徹が政界引退を表明してから勢いが弱まっている。一方、小池百合子に総理の野望があるならより多くの議席を欲するはずだ。自民党が地方を重要な票田とし、それに対する民進党も弱まる中で東京と大阪に票田を持つ政党ができれば自民党と二大政党制が成立するかもしれない。ただし、二大政党制が安定するまでには時間をかかるだろう。そもそも小池新党の国政進出は未だ未確定であり、日本維新の会との合併も速やかに進むとは限らない。ちょっとした政策の違いで食い合う可能性もなくはない。また小泉純一郎の息子の小泉進次郎のような新自由主義者自民党内にもおり、これを小池が取り込み自民党を割ることができれば総理の座も近くなるが逆に新自由主義政策を自民党が行い、小池新党が勢いをなくすこともありえなくはない。個々の政治家の権謀術数は複雑に絡み合い簡単には収束しないだろう。元自民党議員でかつては安倍晋三を支持していた小池は自民党との大連立を目論むかもしれない。このメリットは政権運営の片翼を担い、政治未経験の議員たちに運営方法を身に付けさせられることである。以後の政局は小池百合子百合子の手腕や展望と、それに対する既存議員の反応次第である。

 

都市部を支持層とする新たな左派「新進歩主義

さて、ここまで小池新党が国政進出したら新たな左派政党になるのではないかと考察してきたが、もしこの予想が正しく世界的にグローバリズムを中核とするイデオロギーが成立したらそれはなんと総称されるだろうか。マクロンは自身が作った共和国前進!を「進歩主義運動だと考えている。」と発言している。進歩主義は前述の通り、戦前の二大イデオロギーの左派であり、両大戦の中で衰退した現在の政治の世界では過去のものと見なされることの多い思想である。「右翼」「左翼」の話の中で保守とか革新とか国粋的とか意味を提示をしたが、個人的に「右翼」と「左翼」を根元的に分けるものは「経験・伝統に基づいた政治」か「理性・理論に基づいた政治」かということではないかと思う。その定義ならば政治の多くを説明できるだけでなく、イギリス経験論や大陸合理論のような哲学の話とも繋げられ、より広く深く歴史的にイデオロギーについて考えられると思う。

かつての進歩主義は科学の発展に伴い生まれて来たものだった。科学による人類の進歩が疑問視されるようになった両大戦から時間が経ち、再び科学に基づく政治理論が育まれつつあるのではないだろうか。人権や人種に関することは戦後多くの迷信が否定され、差別是正をもたらした。その一方で社会は多くの学術知識によって高度に整備されるなかで、知識の差、学歴の差が格差の拡大をもたらし始めている。経済成長と格差是正の両立が不可能だとなった時果たして社会上流の頭脳達はどちらを選び取るだろうか。経済成長を優先し、自由であるがゆえに格差の拡大、国際化を容認するのは都市部ではないだろうか。かつての進歩主義とは明らかに異なるいわば「新進歩主義」が今政治の世界に現れつつあり、日本においては東京で支持を固める小池百合子がその旗手となっていくのではないだろうか。

歴史考察ブログ始めます!

歴史好きが昂じて歴史系のブログを始めることにしました。主に政治や社会の変遷に関して歴史的に考察をしていきます。

ブログを書くのは初めてですが歴史の面白さが伝わるよう。頑張って行きたいと思います。世界史、日本史を問わず幅広く取り扱うつもりです。

以後、よろしくお願いします。

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